――生意気なヤツ。
それが私の抱く、鈴鹿和馬の印象だった。
たぶん偶然にも鈴鹿が女の子から告白されている場面に遭遇したから、 余計にそう思うのかもしれない。
興味ないから、とあっさり振って、女の子を泣かせていた。
なにさまのつもりかしらと思いつつも、 もっと別な断り方があるだろうにと思って、その不器用さに呆れた。
そんなことがあったから、試合の応援に来ないかと誘われたとき、 私は思いっきり眉をしかめてしまった。
「どうして私が? バスケなんて興味ないよ」
いつか鈴鹿がそう言って女の子を振ったのと同じ言葉で、 あっさりと誘いを断る。
すると鈴鹿はカッと顔を赤らめて、力任せに机を叩いた。
「んだよ、それ。ずいぶんな言いようだな。 興味あるかないかは、試合を見てから決めろよな!」
どうやら興味ないと言った一言が、鈴鹿のカンにさわったらしい。
やっぱりこいつの頭の中は、どこまでもバスケのことしかないようだ。
女の子に興味を持てなんてことは言わないけれど、 もっと他のことにも目を向けられないものかと、いらない心配すらしてしまう。
「負け試合なんて見たくないわよ」
机に頬杖をついた姿勢で、何気なく口にしてしまった言葉。
言った後でヤバイと思ったが、 意外にも鈴鹿は得意げにニカッと笑って、親指を立てた。
「第三高校相手に、誰が負けるかよ。楽勝だぜ!」
どこから沸いてくるんだろう、その自信は。
いまいち乗り気になれない私は、頬杖をついたまま、 そんな笑顔をのんびりと見上げる。
「そうねぇ、どうしようかなー」
たぶんこうなった以上、鈴鹿は一歩も引かないだろう。
そういう性格なのは、聞かなくても見ていれば分かる。
だけどなんのメリットもなしで、 せっかくの日曜日をまるまるつぶすのはもったいない。
ふと、面白い考えが頭をよぎる。
「鈴鹿ってレギュラーなんだよね。 じゃあさ、シュートを五本決められる?」
「シュート?」
不思議そうな顔で聞き返してくる鈴鹿に、 私は意地悪な笑みを浮かべる。
「そう。決められなかったら、 帰りにパフェおごってよ」
一年だてらにレギュラーとは言ったって、 周りはみんな三年生ばかりなのだ。
チームのアシストがあったとしても、 正直シュート五本というのはかなり厳しいラインだろう。
だけど鈴鹿は臆せずに、いや、 それどころか嬉しそうに声を弾ませた。
「いいぜ。その話、乗った!」
にんまりと笑うと、びしっと指を突きつけてくる。
「だけど五本決めるのはダンクでな。 そうでなきゃ、賭けになんねぇ」
「えっ? 負けたらケーキとアイスの乗ってるスペシャルパフェのおごりだよ?」
「おう、もっと高いもんでも良いぜ。 どうせ負けねぇからよ」
本当に、どこから沸いてくるんだ、その自信は。
第一、 その身長でどうやってダンクシュートなんて決めるつもりなんだろう。
ゴールリングに手が届くなんて、到底思えないんだけどな。
だけどこれでスペシャルパフェはいただきだわ。
そう思ったら、日曜日の練習試合が楽しみになってきた。
賭けに負けた鈴鹿をどうからかってやろうかなんて、 そんなことまで考えてしまった。
はっきり言って、私は今まで鈴鹿のバスケを見たことがなかった。
これを言ったら鈴鹿に怒られそうだが、 一年でレギュラー入り、しかもスタメン確定というのがあまりに鼻について、 意地でも見るもんかと思っていた。
どうせ調子に乗ったワンマンプレーばかりなのだろう。
それで勝てる程度の試合を喜んで見に行くほど、 私はバスケも、ひいては鈴鹿にも興味が持てなかったのだ。
今日来たのは、あくまでパフェのため。
そして悔しがる鈴鹿を思う存分いじめてやるためだけだった。
「こんなの、詐欺だ」
どんどんと点差の開いていくスコアボードを恨めしげに見つめながら、 私は思わずそんなことを口走ってしまった。
そう、分かってる。
騙されたわけではなく、私の認識が甘かっただけなのだ。
やっぱり私の予想通り、鈴鹿のバスケはワンマンプレーだった。
とにかく強引、その一言に尽きる。
一度パスを回されたら、 脇目もふらずに一直線にゴール下へ駆け込むような、そんな独りよがりなプレー。
でも――、惹かれた。
だって、シュートがずば抜けて綺麗なのだ。
バックボードやリングに当てることなく、 ボールが静かにスッとネットをくぐり抜ける。
あの不器用な鈴鹿の手から放たれているとは思えないぐらいの綺麗な孤で、 鮮やかにシュートを決めるのだ。
ほら、今だってディフェンスをまるで踊るようにひらりとすり抜けていく。
〜 続く 〜