自転車 〜for.和馬2


自転車にまたがったまま、大きなあくびをしている。

信号待ちの交差点で見つけたその後ろ姿に、私はすかさず駆け寄った。

「和馬くん、おはよ!」

背中をぽんと軽く叩く。

「おう」

振り返った和馬くんは、涙の残る目をこすりながら、かったるそうに返事をしてきた。

「なんだか眠そうだね」

「あぁ、昨日遅くまでNBAのビデオ見てたからな。 でもよ、スピードもキレも、本場はやっぱ違うぜ!」

今までの眠気はどこへやら、 和馬くんは太陽に負けないぐらいキラキラと瞳を輝かせる。

「今度お前にも貸してやるよ。すげー勉強になるぜ。おっと!」

信号が青へと変わり、和馬くんが自転車のペダルに足をかけた。

なんだかこのまま置いていかれそうな雰囲気に、私は思わず制服を掴んで引き留める。

「ねぇ、待って。ついでだから、後ろに乗っけてってよ」

「はぁ? なんでお前を乗せなきゃなんねぇんだよ」

やっぱり……。

一緒に登校する気なんかありませんって顔で、和馬くんが不満を漏らす。

「いーじゃん、減るもんじゃないんだし」

そう言うと、私はちょっと強引に自転車の後輪にある足かけに飛び乗り、 ちゃっかり後ろを陣取ってやるのだ。

「ほらほら、早くしないと遅刻しちゃうよー!」

「ったく、しゃーねぇな。昼にジュースおごれよな」

「分かってるって!」

いつもより高い目線から見る景色は、早いスピードでざぁざぁと後ろに流れていく。

過ぎゆく風と一緒に、空のてっぺんまで連れて行かれそうな勢いだ。

「振り落とされないように、しっかり掴まってろよ!」

こんなに早く自転車を走らせているのに、息すら切らしていない様子で、 和馬くんが笑って言った。

「あ、うんっ!」

私は和馬くんの首に腕を回すと、言われたとおり、ぎゅっと強く抱きついた。

慌てた様子で和馬くんがなにか言ってるけど、 風がうるさくて聞こえないってフリしておくんだ。

だってしっかり掴まってろって言ったのは、和馬くんの方なんだもん、ね?

〜 Fin 〜


***


自転車通学という設定で書いてみました。

次の作品は、この話の続きを和馬視点で書きました。

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