紙切れ一枚を頼りに、俺は照りつける日差しの中をとぼとぼと歩いていた。
さっきから頭の中にはクエスチョンマークがぐるぐると回りっぱなしだ。
七瀬は墓参りには行くなと言った。理由は分からない。
氷室は墓参りに行けと言った。やっぱり理由は分からない。
だけどおそらく、俺に関わる『なにか』があることは間違いない。
でも、だったらなおさら、どうして誰もなにも教えてくれないんだ。
「あー、意味分かんねぇ。でも七瀬も氷室も、 簡単には話してくれそうにないしなぁ」
七瀬より氷室のほうが可能性ありと思ってあれからかなり粘ったが、それでも口を割らなかったんだ。
あとの手掛かりと言えば、墓参りしか残されていない。
あれだけ七瀬が行くなとお願いするほどだったんだ。
墓参りにその『なにか』が隠されているのかもしれない。
「おっ、ここか。えーと、七瀬の墓は――」
さすが氷室の書いた地図だ。
細かいところまできちんと書かれていて、迷うことなくたどり着けた。
最初こそなにかあるんじゃねーかと緊張したが、どこからどうみてもやっぱりただのお墓だった。
「まぁいっか。とりあえずお供えすっか」
来る途中に立ち寄った店で買った仏花や線香を取り出すと、すでに供えられていたものに追加してやった。
線香の煙を見て、ついつい七瀬が成仏しませんように、なんて思いながら合掌を終える。
ドキドキしながら目を開けると……、やっぱりなにも起こらない。
「別になんもねーじゃんか。なんであんなにイヤがってたんだ?」
あの必死さはただごとじゃねぇと思ったが、ただの勘違いだったんだろうか。
結局謎が解決しないまま、またしても新しい謎が増えただけだった。
「とりあえずこのことは七瀬には言わないでおくか。あいつ怒ると怖ぇーしな」
さて、帰るか。そう思って立ち上がったとき、
「あら、あなたは――」
ふいに背後から声をかけられた。
さすがに驚いて振り返ると、見たことのない女性が立っている。
年はお袋と同じぐらいで、黒い服装も相まってかずいぶんと疲れきった顔をしていた。
「やっぱり和馬くんだわ。来てくれたのね、嬉しいわ」
あれ、やっぱ知ってる人なのか? と記憶をさかのぼってみても思い当たらない。
誰なのか聞こうと口を開きかけて、思わず「あっ」と声が出た。
にこりと嬉しそうに笑った顔が、よく知っている人物と重なったからだ。
「もしかして、七瀬の――」
「あぁ、ごめんなさいね。私は妃茉莉の母です。生前は妃茉莉がお世話になりました」
深々と頭を下げる丁寧さや、おっとりとした雰囲気が七瀬にそっくりだった。
「いや、俺こそ勝手に来てすみません」
まさかここで七瀬のお袋さんに会うとは思ってもなくて、いわゆるお悔やみの言葉なんつーもんがなにも出てこねぇ。
焦って慌てる俺を見て、七瀬のお袋さんはにこにこと笑った。
「いいのよ、気にしないで。来てくれてありがとう。きっと妃茉莉も喜んでいるわ」
どこか愛おしそうにお墓に目をやり、そしてさらに嬉しそうに笑顔を見せた。
「あらまぁ、お花やお線香まで供えてくれたのね。本当にありがとう」
「そんな大したことは……」
「今日も暑いわねぇ。そうだわ、和馬くんはまだ時間があるかしら。 せっかくだからお仏壇にもお参りしていかない?」
墓参りを禁止されてたってーのに実は仏壇にまでお参りしました、なんてさすがにヤバいだろ。
七瀬は自分の家の近くをうろついてんだ、どこかであいつの耳に入るかもしれねぇし。
ここは即断って退散しかねぇだろ!
だが、次の言葉が俺の堅い決意を揺るがした。
「和馬くんに見せたいものがあるのよ」
「――見せたいもの?」
もしかして、それがあの謎を解き明かす鍵になるんじゃねーのか。
七瀬も氷室も教えてくれなかったことを、七瀬のお袋さんが答えてくれるような気がした。
「それじゃ、ぜひ」
俺は二つ返事で即答した。
〜 続く 〜