手にした一枚の紙片を開いた途端、思わずため息がこぼれた。
「お前、何が出た?」
「あ、ダメ。見ないでっ!」
とっさに隠したつもりだったけれど、スポーツマンの動体視力ってあなどれない。
「うわ、正月早々すげーな、お前」
そう言って、嵐くんは私のおみくじを豪快に笑い飛ばした。
そう、私の引いた、大凶のおみくじを……。
「うぅ、嵐くんの意地悪っ!」
いつもだったらその笑顔があればどんなことだって乗り越えられるのに、 今日はとてもそんな気分になれなかった。
手の中のおみくじをギュッと強く握り締める。
私がいつまでもそんな態度だからか、さすがの嵐くんも気になるみたい。
「そんなしょげるなって。ただのおみくじだろ」
慰めてくれるように、軽く頭をぽんぽんとしてくれた。
それでも気分が晴れないのは、絶対に意地悪な神さまのせいだ。
だってお参りで嵐くんとの仲をお願いした直後の大凶だもん。
最初からもう叶わないって言われちゃったみたいじゃない。
「どうせ大吉だった嵐くんには、 私の気持ちなんて分かんないんだよ」
可愛くない一言だと自覚していても、どうしても止められなかった。
自信がないんだ。
嵐くんともっと仲良くなりたい。
自分を好きになって欲しい。
そんなことを神さまにお願いしなくちゃいけないぐらい、心細いの。
ただのおみくじにこんなに落ち込まなくちゃいけないぐらい、 自分に自信なんて持てないんだもん。
やっぱり情けないよね、こんなの。
自分でなにも努力しないで成果だけ手に入れようなんて、 神さまにだって見放されちゃって当然か。
またも深いため息がこぼれ落ちた。
頭上から同じようなため息が聞こえてきて、思わずハッとする。
意地悪な神さまだけじゃなく、とうとう嵐くんにまで呆れられてしまったのだろうか。
恐る恐る見上げると、大きな手が私からおみくじをひょいっと取り上げてしまう。
「貸してみろよ」
そう言って、嵐くんは私の大凶のおみくじを、 自分の大吉のおみくじで包んでしまった。
それを器用に木の枝に結ぶ。
まるで、もう離れないとでも言うように。
「これでプラスマイナスゼロ。お前の大凶はチャラになんだろ」
あまりのことに、私はただただ呆気に取られてしまった。
「でもこれじゃ、せっかくの嵐くんの大吉が……」
「俺はいーよ。お前が落ち込むぐらいなら、大吉なんかくれてやるさ」
そう言って、またも豪快に笑い飛ばした。
私は何も分かってなかったんだ。
こんなにはっきりと目の前にあったのに、今まで一体なにを見て来たんだろう。
不安に負けて、大切なものを見逃していたなんて。
結ばれた二つのおみくじが寄り添うように北風に揺れている。
「私ってバカだね。拗ねて怒ったりしてごめんね」
「自覚あるなら大丈夫だろ」
「あ、それヒドイ!」
振り上げたこぶしはあっさりと受け止められてしまった。
「俺を出し抜こうなんて甘いな」
あまりに不敵に笑うのがちょっと悔しくて、 受け止められたこぶしを広げて、そっと指を絡ませる。
この寒空の下でもぽかぽかと温かい気持ちが溢れてくる。
自信なんてあるわけない。
明日だってどうなるか分からないぐらい、確かなものなんてなにもない。
でもこの気持ちだけは変わらない。
誰よりも何よりも嵐くんが大好きなこの気持ちだけは、 明日もその先もずっと紡がれていく変わらない想いなんだ。
「甘いのはどっちかしら」
いたずらっぽく笑うと、少しだけ嵐くんの頬が赤らんだような気がした。
――大丈夫、大丈夫。
不安や心細さはこんなに簡単に姿を変えてしまうんだ。
隣に嵐くんがいてくれれば、それだけでどんな大吉にも勝る幸運になるんだもの。
〜 Fin 〜